和歌山地方裁判所 平成6年(行ウ)6号 判決 2000年3月28日
原告
上田州彦
同
渡辺忠広
右両名訴訟代理人弁護士
市野勝司
阪本康文
由良登信
小野原聡史
野間友一
被告
和歌山県地方労働委員会
右代表者会長
水野八朗
右訴訟代理人弁護士
谷口曻二
右指定代理人
竹内潔
大西範昭
榊厚二
被告訴訟参加人
住友金属工業株式会社
右代表者代表取締役
小島又雄
右訴訟代理人弁護士
高坂敬三
夏住要一郎
鳥山半六
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が和労委平成三年(不)第二号不当労働行為救済申立事件について平成六年八月二五日付けでした命令を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告らが、参加人が労働組合の運営に支配介入する不当労働行為を行ったと主張し、不当労働行為救済申立てを行ったところ、被告から、これを棄却する旨の命令を受けたため、その取消しを求めた事案である。
一 前提となる事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。
1 当事者等
(一) 参加人は、鉄鋼、非鉄金属及びそれらの合金の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(二) 原告らは、参加人和歌山製鉄所に勤務する従業員であり、同製鉄所の従業員で組織された鉄鋼労連住友金属和歌山労働組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。
(三) 和歌山製鉄所においては、同製鉄所勤務の作業長によって作業長会が組織され、また、同製鉄所製管部中径管工場においては、同工場勤務の工長によって工長会が組織されており、それぞれ親睦行事等の各種事業を実施している。
2 組合役員選挙についての従前の経緯及び実施状況等
(一) 本件組合においては、昭和三八年五月、五月会が結成され、労使の協調を旨とする労働組合主義を標榜するとともに、共産主義勢力との対決を主張し、自主的に労働組合活動を行うべきとする団体との間で、本件組合の主導権をめぐり、激しい対立関係を生じた。五月会は、その後、昭和四一年実施の組合役員選挙に勝利し、多数派を形成するに至り、以後、これを維持している。
(二)(1) 本件組合の役員は任期二年(各年九月一日から翌々年八月末日まで)であるところ、執行委員会を構成する組合長、副組合長、書記長、財政部長、執行委員及び会計監査の各役員は全組合員中から選出され、また、中央委員は、各支部ごと組合員数一〇〇名まで二名、それ以上一〇〇名を超えるごとに一名の割合で、当該支部の組合員中から直接無記名投票により選出され、支部長及び副支部長は各支部の組合員中から選出される取扱いとなっている。
(2) 平成二年実施の第三七期組合役員選挙(以下「本件役員選挙」という。)は、同年六月二九日第一回告示、同年七月三日及び同月四日立候補受付、同月五日第二回告示、同月九日ないし同月一三日選挙運動期間、同月一二日及び同月一三日不在者投票、同月一六日ないし同月一八日一般投票及び同月一九日開票の予定で実施された。
本件役員選挙においては、組合長、副組合長、書記長、執行委員及び会計監査について、一括選挙が行われ(中央選挙とも呼称された。)、組合長(定数一名)二名、副組合長(定数二名)二名、書記長(定数一名)二名の立候補がされた。また、右選挙と併せ、中央委員及び支部長の選挙が実施されており(支部選挙とも呼称された。)、中央委員選挙については試験支部及び鋼片支部、支部長選挙については試験支部、鋼片支部、溶接管支部及び製板保全支部において、それぞれ決選投票が行われた外、定数以上の立候補はなく、信任投票が実施された。
3 救済命令申立てに至る経緯
(一) 原告らは、平成三年四月二五日、参加人が、本件役員選挙において、職制による会議を利用して組合員の投票に介入した上、非組合員である人事業務担当者をして組合員に信任投票を強要させ、これを拒否した同人に報復的な業務命令を発してこれに従事させたとして、組合運営に対する支配介入の禁止等を求め、不当労働行為の救済申立てをした。
(二) 被告は、平成六年八月二五日、右申立てを棄却する旨の命令をし、同命令は、同年九月七日原告渡辺及び同月八日同上田に各送達された。
二 争点
本件の争点は、参加人による不当労働行為(労働組合の運営に対する支配介入(労働組合法七条三号本文))の有無である。
三 争点に関する当事者等の主張
1 原告ら
(一) 本件職場勉強会における不当労働行為の有無について
(1) 中径管工場勤務の工長らは、平成二年六月一八日、和歌山製鉄所大泉研修所で実施された工長会主催の職場勉強会(以下「本件職場勉強会」という。)において、本件役員選挙の対策会議を開催した上、五月会が支持する立候補者の当選に向けた具体的対策を討議した。
右討議においては、反対派立候補者の得票数を五〇〇票以下に押さえた上、各支部での得票数も五票以下に押さえる旨の「中央アタック五〇〇、支部アタック五」と称する活動目標の達成が確認された上、各職場において、職場勉強会と称する選挙対策会議を適宜開催し、その議事録を同年七月一〇日までに労務担当者宛提出すること、投票当日、反対派からの切崩工作を回避するため、反対派在勤の職場においては、業務命令によりワイヤー点検作業を実施して反対派の組合員を同作業に従事させ、その間、他の組合員が投票すること、反対派が在籍しない職場においては、勤務時間前後に、業務命令により安全会議を実施し、組合員を早出ないし残業させた上、予め指定された投票順序に従い、各職場ごとにまとまって投票すること、実際の投票に際しては、グループ投票(職場ごとにまとまって投票する投票方法をいう。)ないしペア投票(事前にペアを決めた上、投票内容を相互に確認し合う投票方法をいう。)による旨が取り決められた。
(2) 本件職場勉強会は、参加人の指示のもと、本件役員選挙において、参加人の支持候補者を当選させるための方策を協議するべく開催された選挙対策会議である。
また、工長会は、作業長会とともに、参加人の指示を受け、会社業務に関する指示伝達を担当する外、組合役員選挙ないし公職選挙等において、参加人の支持する立候補者の当選を目指し、多方面にわたる集票活動等を実施するためのインフォーマル組織であって、参加人は、作業長会ないし工長会の活動を通じ、従前から組合役員選挙等への介入を頻繁に繰り返しており、本件職場勉強会も、その一環として実施されたものである。
(二) 組合員に対する不当労働行為の有無について
(1) 和歌山製鉄所生産保全部勤務の人事業務担当者岡野正敏は、労働協約上非組合員とされる職制であるにもかかわらず、平成二年七月一六日、同部動力室資材管理室勤務の小松紀夫を同部事務所に呼び出した上、同人に対し、本件役員選挙の支部選挙において、信任投票をするように強要し、これに従わない場合は、同人の人事査定に関するデータを改変し、不利益取扱いをする旨を告げた。
(2) 資材管理室勤務の作業長代行星畑忠義は、右申出を拒否した小松への報復として、同年八月二三日、同人に対し、製管給水周辺の除草作業等を指示し、同人は、同月二七日ないし同月三一日、右作業等への従事を余儀なくされた。
2 被告及び参加人
(一) 本件職場勉強会における不当労働行為の有無について
(1) 本件職場勉強会においては、中径管工場における担当職務ごとに分かれて分科会が開催された上、出席者によるフリートーキングが実施され、その際、出席者全員が五月会会員であったことから、偶々、間近に迫った本件役員選挙に話題が移行し、五月会の推薦候補者を当選させるための選挙対策が討議され、一連の取決めがされたにすぎないのであって、参加人は、右取決めに関与していない。
(2) 工長会は、中径管工場勤務の工長らによって、相互の研鑽及び親睦を目的として設立された上、日常活動も構成員が自主的に行う任意団体であり、参加人は、その設立ないし運営に関与していない。
(二) 組合員に対する不当労働行為の有無について
(1) 岡野は、多額の借財を抱えた小松から、借財ないし家庭問題等について、かねて相談を受けていたところ、平成二年七月一六日、生産保全部事務所において同人と面談し、その経済状況や生活状況等を聴取し、指導、助言に当たったものであり、その際、同人が、本件役員選挙において、執行委員に立候補していたことから、選挙運動の手応え等を尋ねた上、当落にかかわらず、選挙後は相互に協力して業務に従事してほしい旨を述べたにすぎないのであって、信任投票の強要など一切してない。
(2) 小松に対する除草作業等の指示は、和歌山製鉄所において、かねてから推進されていた職場美化運動の一環として行われたものであり、何ら報復的な措置というべきものではない。
第三当裁判所の判断
一 本件職場勉強会における不当労働行為の有無について
1 前記前提事実、証拠(<証拠・人証略>、原告上田州彦)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 作業長会及び工長会の活動内容等
(1) 作業長会においては、作業長に任命された月をもって会員資格を自動的に取得し、転任等をもって退会する取扱いであり、会員は、毎月一定額につき給与控除を受け、労働金庫宛送金依頼することによって、会費を納入していた(参加人においては、労使間協定により、労働金庫の融資返済金ないし預貯金名目で、従業員から給与控除依頼を受けた場合、当該金額を給与から一括控除した上、労働金庫宛振込送金する取扱いであった。)。
和歌山製鉄所労務部勤労室には、作業長会についての庶務担当者が存し(事務局とも呼称されていた。)、会社施設の利用申込手続を代行するなど、会務補助をした上、要請を受けて定例幹事会に出席し、会社業務に関する一般的な質問に応じた外、議題の如何によっては、勤労室長等の幹部が出席の上、業績見通し等に係る説明を行った。
作業長会の日常活動は、幹事会等の決定により、自主的に実施されていたものの、公職選挙等の際、参加人が、支持候補者を当選させるため、作業長会を通じて従業員に指示を与え、右支援のための選挙運動に従事させたこともあった。
(2) 工長会においては、入会希望者が会長宛申込みをすることによって会員資格を取得することとされており、平成二年六月当時の会員数は、約七〇名であった。会員は、作業長会と同様、毎月一定額につき給与控除を受け、労働金庫宛送金依頼することによって、会費を納入していた。
工長会は、日常活動として、スポーツ大会等の親睦行事や会員の慶弔に関する事業を行う外、日常業務に関する事項について、定期的に職場勉強会を開催しており、毎年六月ころには、恒例として、四月入会の新会員を含めて職場勉強会を実施していた。
(二) 本件職場勉強会に至る経緯及びその後の状況等
(1) 工長会は、平成二年四月ころ、恒例の職場勉強会を開催する旨決定し、乙番勤務者(和歌山製鉄所においては、一日を甲ないし丙の時間帯に区分し、それぞれ甲ないし丙番と称しており、乙番の勤務時間は、午後三時ないし午後一〇時一五分であった。)については、勤務時間外である同年六月一八日午前一〇時から午後一時四五分までの間、大泉研修所において、中径管工場製管、検査及び進行の各グループ(同工場における担当業務によって、区分されたもの。)に属する4-3B直及び3-3A直(和歌山製鉄所では、AないしDの四班一組で勤務を行う四直三交替制、AないしCの三班一組で勤務を行う三直三交替制等の勤務形態が存しており、右四直三交代制におけるB班勤務者を4-3B直、右三直三交代制におけるA班勤務者を3-3A直と呼称していた。)の工長及びグループリーダーが参加し、本件職場勉強会が開催された。
従業員が会社の研修施設等を利用する場合、労務担当者(室長及び工場長等が行う労務管理に係る事務や庶務事項等の外、工場長等の秘書的業務を管掌していた。)に依頼の上、利用申込手続を行う取扱いであり、右開催に際しても、中径管工場の労務担当者中村が申込手続を担当した。
(2) 本件職場勉強会においては、同日午前一〇時ころから約一時間、工場長原英栄による講話が行われ、和歌山製鉄所の業績推移や、主力製品である継目なし鋼管(シームレスパイプ)の価格動向等に関する説明がされた。右講話は業務関連の内容であり、同人の指示によって超過勤務扱いとされ、出席者に対し、右講話時間相当の超過勤務手当てが支給された。同人は、講話終了後、同行の中村に先導され、中径管工場に帰所した。
同日午前一一時ころから約一時間、安全衛生主任指導員竹本幸生による講話が行われ、中径管工場における今後の課題として、コスト合理化や製品の品質向上を図るべきこと、同人が工長の職にあったころの経験談等が話された。出席者は、同日午後〇時から午後〇時四五分までの間、昼食を取った。なお、参加人においては、従業員が担当業務に係る自主的な勉強会等を開催した場合、費用の一部を補助する制度があり、本件職場勉強会においても、職場勉強会援助費として、右昼食代相当額が支出された。
(3) 同日午後〇時四五分ころから約一時間、製管、検査及び進行グループごとに分科会が開催され、出席者全員によるフリートーキング(工長会主宰の職場勉強会においては、会員相互のコミユニケーションを図るべく、度々フリートーキングが実施され、わいがやと称されていた。)が行われた。
進行グループの分科会(以下「本件分科会」という。)においては、工長大谷久男外一八名が出席し、竹本の前記講話に関する感想等を口火に、中径管工場における今後の業績見通し等についての雑感等が話されたところ、約一五分経過後、グループリーダー清遠隆司が本件役員選挙に言及したのを発端とし、選挙情勢に話題が移行した。大谷らは、本件役員選挙が、組合長谷澤和夫が勇退の上、五月会の推薦候補者として、流川治雄が組合長に、恩田正夫が副組合長に各立候補するなど、五月会にとって極めて重要な役員選挙であるとして、五月会の支持する候補者を当選させるための具体的な方策を討議した。なお、工長会構成員の大多数は、五月会に所属しており、本件分科会の出席者も、全員五月会会員であった。
(4) 右討議においては、本件役員選挙の日程案が示された上、中央選挙とともに、支部選挙も実施されるため、候補者の周知徹底に意を注ぎ、選挙活動の充実を期すべきこと、反対派の立候補者に係る得票数を五〇〇票以下に押さえた上、各支部における得票数も五票以下に押さえるべく、活動目標「中央アタック五〇〇、支部アタック五」の達成を図ること等が確認された。
選挙活動の具体的方法については、第一回告示日である平成二年六月二九日までにオルグを一回実施し、支部における活動目標の達成如何を検討するため、票読みを実施すること、反対派の候補者が出揃う同年七月五日までに再度オルグを実施し、五月会の推薦候補者の周知徹底を図った上、票読みを実施すること、各職場で行われたオルグの進捗状況や票読みの結果を集約し、投票予測をする必要があるところ、五月会会員であり、常昼勤務である中村を集約先とすれば都合が良く、追って、同人に連絡の上、了承を得ることとされた。
また、投票当日の対策として、反対派からのオルグを回避するため、グループ投票ないしペア投票を実施すること、反対派に属する諸橋賢二在勤の職場においては、同人から、グループ投票等の実施について異議申立てを受けるおそれがあり、投票当日、ワイヤー点検作業を実施して同人を同作業に従事させ、その間、他の組合員をして投票させること、投票当日の混乱を避けるため、事前に安全会議を実施して組合員を集合させ、職場間における投票順序を取り決めること、進行グループ所属の組合員において、反対派のオルグ状況等の監視に当たること等が取り決められた(以下「本件取決め」という。)。
その際、出席者から、ワイヤー点検作業や安全会議を選挙対策として実施するのは不適当である旨の意見が出されたものの(ワイヤー点検作業及び安全会議は、会社業務であり、工長ないし作業長等の職務命令によって実施される取扱いであった。)、右実施に賛同する出席者が多数を占め、本件取決めがされるに至った。
(三) 原告らの申入れに係る経緯及びその後の状況等
原告らは、その後、本件分科会の内容が記載された議事録の写しを入手した上、小松とともに、平成二年七月一二日、本件組合書記長豊浦幸三及び本件組合中央選挙管理委員会委員長小田村彰久に対し、本件取決めは参加人の不当労働行為に該当する旨を指摘し、本件組合として参加人に抗議し、善処を求めるように申し入れ、同月一九日、同人に対し、再度同旨の申入れをした。
勤労室長池田吉和は、豊浦から右申入れの事実を指摘され、事実調査を行うべく要請を受け、中村から本件職場勉強会の経緯等を聴取した上、豊浦に対し、右経緯等を報告した。
大谷は、同月一五日、小田村から事情聴取を受けた上、ワイヤー点検作業や安全会議等の業務を利用する旨の取決めは、選挙活動として許されないと叱責され、本件分科会の出席者に対し、電話で事情説明の上、前記取決めに基づくワイヤー点検作業等を実行中止とすべき旨を伝えた。そのため、同月一六日ないし一八日の投票期間中、ワイヤー点検作業等を利用した選挙対策は実行されなかった。また、オルグの進捗状況等の集約を中村に依頼する旨の取決めについても、実行されることはなかった。
池田は、同月一六日ころ、小田村から面会を求められた上、同人自身、関係者から事情聴取をしたこと、不正投票等を防止するべく、投票当日、中央選挙管理委員会の役員を中径管工場の投票場所に待機させ、組合員の投票行為を監視させる旨の説明を受けた。同人は、その際、池田に対し、中央選挙管理委員会から、全組合員に公正選挙を呼びかける予定であるので、参加人においても、勤務時間を利用した選挙対策ないし選挙活動等の禁止を徹底するように要請され、同月一七日、定例会報(和歌山製鉄所長及び全管理職参加のミーティングをいう。)において、出席者に対し、同旨の注意を与えた。
以上のとおり認められ、証拠中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
2 原告らは、本件職場勉強会は、支持候補者を当選させるため、参加人の指示を受けて開催された選挙対策会議である旨を主張するので、以下、右認定事実をもとに検討する。
前記1(二)(4)に認定のとおり、本件分科会においては、選挙対策として、ワイヤー点検作業や安全会議等の会社業務の利用が目論まれ、労務管理に係る事務等を職掌とする労務担当者をしてオルグの進捗状況等の集約を担当させる旨が取り決められており、五月会会員が自派の候補を支援するために行う一般的な選挙活動の範疇を超えた一面が窺われるところである。また、本件職場勉強会は、単なる親睦行事等でなく、工長らの担当業務に関する知識習得を目的とするもので、会社業務と一定の関連を有する上、参加人は、同(2)に認定のとおり、自己の保有する研修施設を会場として提供し、労務担当者をして右利用申込み等の事務を補助させた上、工場長による講話を実施し、講話時間相当の超過勤務手当てを支給した外、出席者の昼食代を負担するなど、その実施に種々の便宜を与えているのである。
しかしながら、前記1(三)に認定のとおり、ワイヤー点検作業等を利用した選挙対策は実行中止となり、中村への結果集約についても、事前に同人宛連絡されたものでなく、事後的にも、その了承は得られていない。また、本件職場勉強会は、参加人の業務遂行に資する面があり、右便宜供与は、このような性質の集会に対するものとして、さして過大といい難く、参加人が、本件職場勉強会を特に優遇し、その便宜を図ったとの事情も窺えない。本件取決めは、五月会会員である大谷らが、事前の予定なく、本件分科会のフリートーキングの場を偶々利用して行ったものというべきであって、参加人の具体的な指示ないし関与を窺わせるべき事情は存せず、本件職場勉強会をもって、勤労室の指示のもとに実施された選挙対策会議であると推認することは到底できないというべきであって、原告らの前記主張は、採用の限りでない。
3 原告らは、工長会自体が、作業長会とともに、参加人の指示を受け、組合役員選挙における集票活動等を行うためのインフォーマル組織である旨を主張する。
前記1(一)に認定のとおり、作業長会においては、作業長への任命とともに会員資格を自動的に取得する取扱いであり、工長会についても、その会員数に照らし、中径管工場に勤務する工長の相当数が所属していたものと推認され、ともに相当程度の組織性を備えた団体と認められる上、参加人は、過去、公職選挙等の際、作業長会を利用して従業員に指示を与え、選挙活動等を行った経緯があることによれば、作業長会には、単なる自主的サークルの域を超えた一面が看取されるところである。
しかしながら、前記1(一)に認定のとおり、作業長会等の日常活動は、右公職選挙等の例を除き、会員によって自主的に行われ、その内容も、会員の担当業務に関する職場勉強会や相互連絡、親睦行事等が中心であり、また、日常活動に対する参加人の便宜も、勤労室担当者等が要請を受けて定例幹事会に出席し、会社業務に関する説明を行う外は、労使間協定に基づく給与控除や会社施設の利用申込手続代行等、従業員一般に対するサービスとして実施されているもので、特に異とすべきものにも当たらない。
これらの事情に鑑みれば、作業長会をもって、参加人の指示を実行するためのインフォーマル組織と推認することはできず、ましてや、工長会がこのような組織であると認めることはできないのであって、原告らの前記主張は、採用の限りでない。
4 原告らは、参加人が、作業長会ないし工長会の活動を通じ、従前から組合役員選挙等への介入を繰り返してきた旨を主張する。
(一) 前記前提事実、前記1の認定事実、証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、作業長会等と参加人との関係について、以下のとおり認められ、これを覆すに足る証拠はない。
(1) 和歌山製鉄所においては、昭和五八年ないし昭和五九年ころ、鉄鋼需要の伸び悩みを受けて生産縮小が企図され、同製鉄所勤務の従業員約三〇〇名を参加人鹿島製鉄所に配転させる旨の計画が立案されたものの、従業員の相当大きな反発が予想され、右配転計画は、労使間で早急に解決を図るべき喫緊の課題とされた。
(2) 勤労課長は、同年一月九日、作業長会の幹事会において、右配転計画に触れた上、参加人は本件組合執行部と協議の上、同計画を遂行しており、本年実施予定の組合役員選挙においては、同計画についての従業員の信任如何が問われるとし、参加人の施策を十分従業員に説明し、浸透させる必要がある旨を述べた。労務部長は、同月二三日ない二七日ころ、作業長会実施の研修会において、同計画等の実施を控え、近く実施予定の組合役員選挙に対し、気を許さず取り組むべき旨を述べた。勤労課長は、同年五月二四日、幹事会において、来るべき組合役員選挙において、現執行部への批判票を五四〇票以下に押さえる旨の選挙活動目標を示した。
労務部長及び勤労課長は、同年七月三〇日、幹事会において、先般実施の組合役員選挙において、現執行部への信任票が増加したとして、右結果に対する謝辞を述べた。労務部次長は、同年八月一〇日、幹事会において、右選挙結果について、和歌山製鉄所における現執行部への信任率は九八・七パーセントであり、全社中最も高く、他方、現執行部への批判票は平均三六八票で、あり、前回五一二票を下回った旨を述べた。勤労課長は、同年九月二八日、幹事会において、右組合役員選挙に完勝した旨を述べた。
(二) 右(一)(2)に認定のとおり、昭和五九年ころにおいては、労務担当の管理職らが作業長会の幹事会等に出席した上、組合役員選挙について、現執行部への信任を図るべく、選挙活動に奮起すべき旨を述べるとともに、具体的な得票目標を挙げ、本件組合の現執行部への批判票を押さえるべき旨を指示し、また、選挙後においては、前回選挙に比して批判票が大幅減となり、完勝した旨の分析結果を示し、幹事会の参加者に対して謝意を表するなどしたのである。使用者に準ずる上級職制が、組合役員選挙について、具体的な選挙活動目標を掲げ、現執行部への信任や特定候補者への支持を示唆することは、組合役員選挙への介入として法の禁ずるところであって、労務担当管理職らによる右発言等は、不当労働行為に該当するというべきである。
しかしながら、右に類する介入行為が、本件役員選挙に至るまで、継続して行われていたことを直接に裏付けるに足る証拠は何もない。そして、右発言等は、本件前五年以上も過去の事柄であり、昭和五九年当時、和歌山製鉄所においては、鹿島製鉄所への配転問題が浮上し、労使間での喫緊の課題とされていたのであって、本件当時とは、状況が相違する上、昭和五三年五月こうないし昭和六一年一二月ころにおける一連の作業長会の議事録等(<証拠略>)を子細に検討しても、大半は担当業務関連の内容であって、組合役員選挙に言及された発言は、ごく一部といって良く、前記事情をもって、本件における支配介入を推認することはできないというべきであり、原告らの前記主張は、採用の限りでない。
5 したがって、その余の点を判断するまでもなく、本件職場勉強会における不当労働行為を認めることはできない。
二 組合員に対する不当労働行為の有無について
1 前記前提事実、証拠(<証拠・人証略>、原告上田州彦)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 小松の借財及びその弁済状況等
(1) 小松は、昭和五六年春ころ、マンション購入のため、参加人の住宅財形融資制度の利用を申し込み、その際、同僚等に対し、右融資に係る保証人となるように依頼したものの、拒絶された。和歌山製鉄所動力部動力課勤務の労務担当者であった岡野は、小松から右斡旋方を懇願され、小松の直属上司である作業長奥野浩三とともに保証人となった上、右融資手続について周旋するなどした。
その後、右融資決済が下り、同年六月二五日に実行予定であったところ、岡野は、同月二三日、小松から、多額の借財の存在が判明し、右融資を受けたとしても、返済の目途が立たないとして、右申込みを撤回したい旨の申出を受けた。岡野は、融資実行中止の手続を取るとともに、小松に撤回理由を問い質し、同人の借財状況等を聴取した上、債権者との間で、分割弁済の示談交渉をすべき旨を助言するなどした。
(2) 小松は、その後、弁護士に債務整理を委任した上、債権者らとの間で、期間一〇年、賞与支給時(年二回)ごとの分割弁済を合意し、以後、賞与支給時ごとに、右合意に基づく分割弁済を続け、平成三年七月完済した。岡野は、その間、折を見て、小松に弁済状況を確認するなどし、履行を督励した。
(二) 岡野との面談に至る経緯及びその後の状況等
(1) 岡野は、生産保全部人事業務担当者(部長が行う部内の労務管理に係る事務及び庶務事項を担当する者で、人事係とも呼称されており、労働協約上、非組合員とされていた。)に就任していたところ、平成二年夏季の賞与支給を受け、小松に対し、前記合意に基づく弁済状況を確認するべく、同年七月一六日午前八時過ぎころ、動力室勤務の作業長向日圭造に連絡を取った。岡野は、向日に対し、小松と面談したいと告げ、時間、場所は同人の選択に委ねるとして、調整方を依頼した。
小松は、同日午前八時四〇分ころ、向日から、岡野の面談希望を告げられ、直ちに生産保全部事務所に向かうように指示を受け、同日午前九時三〇分ころから約一時間、同事務所三階階段付近のオープンスペースにある応接セットにおいて、岡野と面談した。右オープンスペースは、高さ約九〇センチメートルの書類棚で区画された一角で、両脇は通路となっており、付近に動静表(従業員の出勤状況を示すもので、出勤ないし退出の都度、各従業員自身において操作することとされていた。)が設置されており、人の往来も比較的多い場所であった。
岡野は、その際、小松に対し、前記合意に従った弁済状況を確認した上、新たな借財の有無や同人の抱える経済問題等を聴取した外、家族問題についても相談を受けるなどし、その際、本件役員選挙において、同人が執行委員に立候補していたことから、選挙運動の手応えを尋ねた上、組合支部の従業員は家族のようなものであり、当落にかかわらず、選挙後は相互協力の上、業務に従事して欲しい旨を伝えた。
(2) 小松は、原告らとともに、同年八月一四日、豊浦に対し、岡野から本件役員選挙の支部選挙に信任投票をするように強要されたとして、参加人への抗議を申し入れた。豊浦は、池田に対し、右申入れの事実を指摘し、事実関係を早急に調査すべき旨を求めた。
岡野は、同月一七日、豊浦から右面談の経緯について事情を尋ねられ、同日、池田からも同旨の事情聴取をされた上、前記面談における発言内容は、人事業務担当者として誤解を招きかねず、言動に注意すべき旨を叱責された。
(三) 小松の除草作業に至る経緯及びその後の状況等
(1) 和歌山製鉄所は、平成元年以降、労働災害を防止するべく、職場美化運動を推進しており、動力室においても、ペパーミントクリーン作戦や一斉五Sないし一気五S等と称する美化運動を実施していた。
(2) 動力室長松岡善人は、平成二年八月二二日、製管給水付近の雑草が繁茂しており、ポンプの点検作業等に支障を来しかねないとして、星畑に対し、右付近の除草作業等を早急に実施すべき旨を指示した。星畑は、同月二七日から右作業等を行うこととし、構内緑化作業等の委託先である参加人の関連会社に作業手配をするとともに、製管給水付近の美化責任者である工長須田樹と協議の上、同人自身は業務繁忙であるが、小松ならば業務調整は可能として、同人宛右作業等を指示する旨を取り決めた外、併せて応援要員一名を右作業等に従事させることにした。星畑は、機械保全室勤務の工長らに応援を求めたものの、夏期休暇中であり、人手不足であるとして、協力を得られず、松岡に対し、右応援要員一名の手配を依頼した。
星畑は、同月二三日、小松に対し、同月二七日から製管給水付近の除草作業等に従事すべき旨を指示するとともに、本務である資材管理室での業務の必要があれば、右作業等を中断しても良い旨を述べた。
同人は、同月二四日、星畑に対し、右作業等の理由等を尋ねるとともに、松岡に対しても連絡を取り、右指示は、前記(二)(2)の申入れをした報復ではないかと問い質した。
(3) 小松は、同月二七日ないし同月三一日、右作業等に従事した。その間、同月二七日、前記関連会社によって、製管給水付近の除草作業がされた外、同日及び同月二八日、前記応援要員一名が、小松とともに右作業等に従事した。
小松は、同日、本件組合動力支部長白須賀悦男に対し、自身を本務復帰させるべく、参加人と交渉すべき旨を申し入れた上、原告らとともに、谷澤に対しても、同旨の申入れをした。
星畑は、同月三一日、小松から、右作業等の完了には、なお日時を要する旨の報告を受け、須田と相談の上、同年九月三日になれば、同人自身において、右作業等に従事し得るとして、小松に対し、右作業等を終了すべき旨を告げた。
2 右認定事実をもとに、組合員に対する不当労働行為の有無について、検討する。
(一) 原告らは、岡野が、小松に対し、本件組合役員選挙の支部選挙において、信任投票をするように強要した旨を主張する。
(1) 右主張に添うものとして、証拠(<証拠略>、証人小松紀夫)中には、大要次のような小松の証言ないし供述記載部分がある。すなわち、岡野は、右面談の際、組合支部は家族のようなものであり、支部選挙においては不信任投票がないことが望ましく、信任投票できないのであれば、棄権すべきであると述べた上、小松のことはコンピューターに打ち込んであり、結果が今までと変わらない場合には、打ち直さなければならないと言った。同人の借財問題についても、一応話題となったが、「例の件はどうなったか。」旨の一言のみであり、同人が沈黙していたところ、すぐに組合役員選挙の話題に移行した。面談中は、岡野が一方的に話し掛けるのみで、返答の間さえなかった、というのである。
右証言等は、一見具体的であるものの、前記1(二)(1)に認定のとおり、右面談の行われた場所は、通路脇のオープンスペースであり、付近には、従業員の出勤状況を示す動静表が設置され、人の往来も比較的多いのであって、このような場所において、信任投票の強要といった、いわば外聞をはばかるべき行為を行うとは通常考え難いのである。また、前記1(一)に認定のとおり、小松は、現に借財問題を抱え、その解決に岡野が寄与しており、弁済合意の成立後も、同人は、折を見て小松に弁済状況を確認し、同人の生活上の問題等についても、相談を受けていたのであって、当日における小松の呼出しも、少なくとも、その主たる目的は、平成二年夏季の賞与支給を受け、前記合意に従った弁済状況を確認することにあったと推認されるのである。それにもかかわらず、岡野が、「例の件はどうなったか。」旨の一言のみで、返答すら求めず、直ちに話題を代え、以後も一方的に話し掛けるのみであった旨の前記小松の証言等は、両者間における会話の流れとして、いかにも不自然の感を免れない。そして、前記一1(三)に認定のとおり、小松は、原告らとともに、同年七月一二日、谷澤及び小田村に対し、本件職場勉強会における不当労働行為を抗議する旨の申入れをした上、岡野との面談後である同月一九日にも、小田村に対し、同旨の抗議をしているところ、その際は、自身が受けたと主張する信任投票強要に係る抗議もなく、前記二1(二)(2)に認定のとおり、同年八月一四日に至り、ようやく右強要行為を抗議する内容の申入れを行っているのであって、申入れの遅延に係る合理的な理由も見出し難い以上(小松は、参加人からの圧力を恐れた旨を証言するが(<人証略>)、先に説示のとおり、同人は、同年七月一二日の段階で、既に本件職場勉強会における不当労働行為を抗議する旨の申入れを行っており、にわかに採用できない。)、信任投票の強要という誰の目にも明らかな不当労働行為を受けたと主張する者の取るべき対応として、右経緯は、甚だ不自然といわざるを得ない。
以上説示の点に加え、反対趣旨の岡野の供述記載部分(<証拠略>)等を総合考慮すれば、前記証言等は、採用の限りでないというべきである。
(2) 小松は、岡野から呼び出された際、同人とのやり取りを記録しておくように知人から助言を受け、面談を終え、資材管理室に戻った後、記憶に基づきメモを取り、その後、これを基に整理して書面(<証拠略>)を作成した旨を証言し(<人証略>)、証拠(<証拠略>)中、小松の前記(一)における証言等の内容に一部副う記載があるものの、同書面に複数の記載漏れがあることは、同人の自認するところであり(同証人)、叙述の正確性に疑問があるといわざるを得ず、その他、右書面の体裁ないし記載内容等を併せ考慮すると、右書面は、作成者が、事物の体験直後、正確にこれを再現するべく記録化したものとして、通常高い信用性を持つと解される類型に属するものとはいい難く、前記認定判断を左右するに足るものではない。
(3) 岡野は、前記1(二)(1)に認定のとおり、前記合意に従った弁済の有無等を確認した際、小松に対し、選挙運動の手応え等を一般的に尋ねた上、選挙後における従業員相互の協力の必要性を訴えたにすぎず、これをもって、同人に対する信任投票強要ということはできず、他に、これを認めるに足りる証拠もなく、原告らの前記主張は、採用の限りでない。
(二) 原告らは、星畑が、信任投票の申出を拒否した小松への報復として、製管給水周辺の除草作業等を指示した旨を主張する。
しかしながら、岡野が小松に対して信任投票を強要した事実自体認められないことは、先に説示のとおりであり、右主張は、その前提を欠くものである。そして、前記1(三)に認定のとおり、和歌山製鉄所においては、労働災害防止の観点から、かねて職場美化運動を推進していたところ、星畑は、松岡から製管給水付近の雑草繁茂を指摘され、除草作業等の指示を受け、業務調整が可能な小松を選び、必要な応援要員等の手当を行った上、同人に対し、除草作業等を指示したのであって、これらの経緯に照らせば、同人への除草作業等の指示は、職場美化運動の一環としてされたものと認められ、他にこれを覆すに足りる証拠もなく、原告らの前記主張は、採用の限りでない。
3 したがって、その余の点を判断するまでもなく、小松に対する不当労働行為を認めることはできない。
第四結論
よって、原告らの請求は理由がなく、これを棄却すべきである。
(裁判長裁判官 東畑良雄 裁判官 大垣貴靖 裁判官 高島義行)